イエノミラボ.

家で飲む

35歳、ひとり、はま寿司で呑む。

・外気温36℃昼、はま寿司にて


うだる暑さの日曜日正午。
家族連れが大挙して押し寄せるはま寿司に、ひとり訪れた。
ガンガンに効いている冷房に少しホッとする。
時はまさにお昼時。
外気温計が36℃を示していた。

店内は家族連れの、まだかまだかという順番待ちから来る苛立ちにより、ピリピリと空気が張り詰めている。
その空気に一瞬気圧されそうになるが、なんとか態勢を立て直し受付発券機に向かう。
スーパーボールの様に予測不能、縦横無尽に跋扈するお子様たちを華麗に避けながら、である。

・「あの人ずるーい!」を受けた背中

無事発券機の前までたどり着くと慣れた手つきで「おとな・1名・カウンター席」を選択。
もちろん予約などしていない。
が、おひとり様のカウンター席に待ち時間など不要である。
それが、このクソ忙しい日曜正午でも、だ。
ものの数秒で席番号「11」が記載された券が発行される。
なお、この券は帰りの精算時に必要になるので捨ててはいけない。
家族連れで満員の待合席を横目に、流れるように席に向かった。
背中にお子様の「あの人ずるーい!後からひとりで来たのに!」の声を受けながら。

・ちょっと濃い目のハイボール

日曜正午のカウンターは、待合スペースの喧騒が嘘の様に静寂に包まれている。
修羅の都、大阪。
順番待ちをしている悪鬼羅刹共のうめき声を遮るように、ハイボールをオーダー。
はま寿司のハイボールはなかなか良い。
チェーン店特有の、氷がパンパンでうっすーいヤツが出てくるのかと思いきや、ちょっと濃い目ヤツが出てきてくれる。
2杯も飲めば、良い感じのほろ酔い気分になれるだろう。
周囲のお父さん達の「あいつ昼から酒かよ!」という、羨望と軽蔑の混じりあった眼差しを受けた気になりながら一口。
ゴクゴクっと流して腹に落とし込んだ。
2口飲んどるないか。

・バディ探し

喉に湿り気が与えられた後は、ハイボールと共に過ごすバディ(相棒)を選ばねばなるまい。
もちろんマイベストオブハイボールバディは、冬季限定の「あんきもかにみそ軍艦」から不変なのは周知の事実である。
ポン酢で食べるとマジで一貫で一杯、一瞬でなくなっちゃう。

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今は亡きマイベストバディ


が、今は灼熱の夏ど真ん中。
旧友を偲ぶが、去ってしまった者は帰らない。
新たな出会いを期待するしかないのだ。

しかし何と都合の良いことに今、はま寿司では「日本旨ねた味巡り」というキャンペーンを行なっている。(8/24〜なくなり次第終了)

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このイベントを活用して新たなバディ探しの旅出よう。

タッチパネルのメニューに目を通す。
細かいところだが、はま寿司のタッチパネルは取り外しが可能。
高評価である。
固定されていると目線を上げなければならないため、肩と首に負担がかかってしまうのがつらい。
取り外せるタイプだと手元で落ち着いて目を通すことができるので、バディ選びもはかどるというものだ。

おすすめから巻物までしっかりと吟味した結果、今日のバディは以下となった。
ちなみに全て¥100商品である。
・北海道産アカイカのうに和えつつみ※キャンペーン商品
・山盛りまかない軍艦※限定品
福井県水揚げほたるいか※キャンペーン商品
・炙りたまごチーズ
かっぱ巻き
我ながらイカ好きがバレる布陣である。
果たしてハイボールのバディとしてカウンターという戦場で、背中を預けることができるチーム編成なのか。

・戦闘開始

まず、北海道産アカイカのうに和えつつみ。
結論から申し上げるとこれはない。
まず主役のイカのカットが小さく、食感が活かされていない。
なおかつ、うにのペーストがケミカル過ぎる様に感じた。
うにが取れなくなった荒廃した未来で、科学者が創意工夫をして古にあった文献から必死に再現した様な味。
これはバディとしてはふさわしくない。

次は山盛りまかない軍艦。
WEBのメニューには掲載されていない、店舗のあるとき限定商品らしい。

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無常の青ねぎ

この日はハマチが多めに構成されており、少量の鯵と鯛が入っていた。これが¥100で食べられるとは。
日本がデフレの原因ってこの皿のせい?
ネタがコロコロと厚めにカットされており、食感もさることながら複数のネタを楽しめ、かつ軍艦のためネタだけを食べ進め易いのも高評価。
さらにシャリだけが残っても、海苔が巻かれていることによりシメにまわすことも可能である。
非常に優秀ではあるが、非通常メニューなので安定性に欠けてしまう。
あくまでも代打の切り札なのだ。
ベストバディのあん肝かに味噌軍艦の留守を任せるのには、少し心許ない。

続いて、福井県水揚げほたるいか
これも写真は割愛するが、大きめのほたるいかの沖漬け(風)がドンと一匹乗った豪快な一皿。
平場から酒のあてとして実力はあるのだが、はま寿司飲みにおいては少々求めている能力の種類が違う。
酒と共にするのではあるが、あくまで「寿司」であることが重要なのだ。
求められるのは、あくまで寿司としての美味さである。
子供はもちろん、大人も高齢者も誰もが美味しく楽しめるようなネタなのだ。
ホタルイカの沖漬け(風)」として食べるともちろん美味い。
だが、「ホタルイカの沖漬け(風)寿司」としては、寿司の基本である魚とシャリのシナジーが発揮されず、味がガクッと落ち嫌な風味が口に残ってしまう。
ホタルイカの味が強すぎるのもある。いいことなんですけどね。

このネタをオーダーする層は、酒が好き(もしくは飲んでいる)大人に絞られる様な印象を受け、寿司としての一体感ではなくツマミとシャリとして捉えている層が多いのでは?という印象。
つまるところ「酒のあてにホタルイカの沖漬け(風)を食いてぇ。」って人が頼むんじゃない?
じゃあ、あん肝かに味噌軍艦はどうなるんだよ!ってのは無し。
あれは誰が食っても美味いので。

これが最後、炙りたまごチーズ。それと追加のハイボール
たまごにチーズが載せられ、それをあぶった上にマヨネーズ、極めつけに醤油ではなく甘だれでいかせて頂きます。
ジャンク…というか完全に悪者の寿司、悪寿司である。

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悪寿司

予想通りの悪い味。
こってりとした甘だれに炙られたマヨとチーズ、それをまとった玉子がズシっと来る。今までにない、想定外のインパクト。
素材の味を、いい意味でも悪い意味でも殺しまくりである。まさに殺戮。
舌が蹂躙された。
NHKの「魔改造の夜」に出てくる寿司だ。
しかし本格的な寿司屋には無い、こういったネタを食べられることこそが回転寿司で飲むことの真価なのだ。
一般的な家族連れのお父さんが日曜日の昼時にこんなことやってると、家族に止められるばかりかご近所さんに噂されてしまう。
「あそこの旦那さん、炙りたまごチーズに甘だれかけて食べるらしいわよ!」
「こわいわねー!恥も外聞もないわねー!本能のままねー!」と。

こういったジャンクな寿司を何も考えず食べられるも、ひとり飲みだからこそ。
大人って、変なプライドが邪魔してコーン軍艦を頼みづらく感じるし、ハンバーグ寿司が食べたいのに、無理して鯵とか食べてしまう。
大人って不便で不思議な生き物なのだ。
これが本日のベストオブバディに輝いた。おめでとう!

・最後にまとめてくれる存在の大きさ

炙りチーズたまごのこってりさを、2杯目のハイボールで流し終えた。
結論から申し上げると、今回のチーム編成は失敗に終わった。
イカ2種の戦力を見事に見誤ってしまった。
しかし、そこに現れた代打の切り札、山盛りまかない軍艦が失速した中盤戦を見事に盛り返して見せ、終盤戦は炙りたまごチーズが圧倒的な破壊力を見せてくれた。
つまりスタープレイヤーの活躍により、チームは全滅から救われたのだ。

このままでは終われない、と3杯目の日本酒をオーダーしようとしたとき、ふと我に返った。
回転ずしの一人飲みは際限がない。故に引き際が重要なのだ。
いつもいつも、はま寿司飲みの最後はとても名残惜しくなる。
そんな最後のしつこい思いを断ち切る為、いつもかっぱ巻きをオーダーしガリを乗せるのだ。
この作業が、カウンター席にしつこく絡みついた思念を流し去ってくれる。
毎度の儀式である。
キュウリのポリポリと、ガリのパリパリが海苔で包まれたシャリと相まってえも言えぬ清涼感。
今日の失敗をそっと包み込んでくれるような、やさしさ。

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かっぱ巻きガリを載せている時間が美しい

優しく背中を押してくれるようなかっぱ巻きが鎮座していた皿に、ご馳走様、と軽く会釈をしてから席を立つ。
店内はまだまだ喧騒に包まれており、店員さんは予断を許さない状況が続いている。
入店時と同様、お子様たちを避けつつピリついた大人の緊張感を感じながらお会計。
しめて¥1,320。素晴らしい満足感。
外気温計は少し上昇した37℃を示しており、まだまだ日も高い。
帰ってからもう一杯飲むか、とまた暑さの中を歩きだした。


え?これ何の話?